白うさぎの高校(男子校)は、北は北海道から南は九州まで様々な地域から生徒が集まっていた事もあり、全寮制だった。
寮の部屋割は、部活毎で割り振られ1年生から3年生まで同室である。
必然的に部活動で「嫌な先輩」は寮でも「嫌な先輩」とな~る。
みんな部屋替えの時には、そんな先輩と部屋が一緒にならない様に祈ったものだ。
「男子校&寮生活」となれば、寮生活のルールが厳しいのはお約束。
中学時代の担任の先生が自身の大学時代の寮生活について
「一生懸命トイレ掃除するだろ、それで先輩がやって来て“ちゃんと掃除できたか?”と聞く訳だ。もちろん“ハイッ!きれいに掃除できましたっ!”と言うわな。そしたら“じゃあ、なめてみろ”だぞ。本当に便器をなめさせられて悔しい思いをしたわ…。」
と語っていたが、ま、似たようなもんですな…
部活毎にルールは違うのだが、白うさぎの所属していた部のルールは特に厳しかった。
大体寮の部屋は奥から3年、2年、1年の順で、スリッパの脱ぐ位置も決められている。当然先輩が脱ぎ散らかしたスリッパは1年がきちんと並べ直すのは当たり前それ以外にも思いつくままに列挙すると…
①1日2回は部屋掃除をする!(1回は「掃除の時間」にするので、それ以外にもう1度しなさい、という事。)
②1日に2回以上「先輩、コーヒーはいかがですか?」と聞く事!(別バージョンで「お菓子いかがですか?」「ラーメンいかがですか?」もあり。当然“ブツ”は後輩が自腹で準備。)
③先輩の畳を横切ってはいけない。どうしても横切らなければいけない時には「失礼します」と言う。
④先輩に出会ったら、必ず足は揃えて大声で挨拶し、体は90度まで曲げてお辞儀する事。(普通30度くらいだよね。)
⑤先輩より早く食事は済ませ、食堂から出て行く事!ただし、先輩がお代りに立ち上がったら、すかさずお代りをよそいに行く事。(早く食べて、出ていかなければいけないのに、先輩に気も使わなければいけない。どうすればええんじゃ!)
⑥基本的に部屋では、椅子に座って過ごす事。畳に座る時には必ず正座で、先輩の許可が出てからでないと足を崩してはいけない。
⑦先輩がギャグを言ったらすかさず笑う事!「何か芸だしやれや!」と言われたらすかさず行う事!
…他にもいっぱいあるのだが、書ききれないので割愛。
このルールが守られていないと、
「修練」といって先輩(主に2年生)に呼び出しをかけられ、真っ暗にした部屋で正座・黙想の上、延々1~2時間程度にわたり説教される。(先輩による鉄拳制裁は1年前に廃止された。ある意味ラッキー)
例:
先輩:「お前ら、最近挨拶しとるか?」
後輩一同:「ハイッ!!」
先輩:「きちんと挨拶しとるもんは手ェ上げぃ!!」
※パラパラと手が上がる。手は真っ直ぐ耳につけて上げなければならないが、曲がっていたりすると叩かれる。これが結構痛い
先輩:「AやBはちゃんとしとるし下ろしてもエエヮ。しかしCッ!お前は何じゃ!」
「説教time クドクドクドクド…」
先輩:「D」
後輩D:「ハイッ!(女の子の様にか細い声)」
先輩:「D!」
後輩D:「ハイッ!(さっきより大きいが相変わらず小さい声)」
先輩:「先輩、なめとんのか!」
後輩D:「いいえ!(甲高くなる)」
先輩:「D」
後輩D:「ハイッ!(女の子の様にか細い声)」
先輩:「D!」
後輩D:「ハイッ!(さっきより大きいが相変わらず小さい声)」
先輩:「先輩、なめとんのか!」
後輩D:「いいえ!(甲高くなる)」
※これが延々と繰り返された。
たのむからやめてくれ~。
Dがか細くて高い声しか出せないの知ってて聞いとんのか?
思わず笑てまうやんけ~。
しかし笑ったらシバかれるし、舌噛んで必死でこらえる白うさぎ!死む~。
先輩:「E、お前こないだ先輩にプロレス技かけられて“痛いですゥ~やめて下さい”言うとったやろ?せっかく先輩が遊んで下さっているのになんじゃ!」
後輩E:「ハイッ!!申し訳ありませんでしたっ!!」
先輩:「今度から気をつけィ!」
後輩E:「ハイッ!!申し訳ありませんでしたっ!!」
※ちょっと!そんな理不尽な…。これ以降、誰も先輩のプロレス技や柔道に抵抗できなくなった。
あと謝る時には「申し訳ありませんでした」と言う事になっている。
ちなみに先輩の名前を呼ぶ時には「~さん」ではなく、「○○先輩」
大体「修練」の流れ(と言うのも変だが…)としては、先輩に対する挨拶、お茶やコーヒーなどの接待、掃除や洗濯などの雑用がきちんとできているかについて説教される。
それだけなら社会へ出てからも応用できる挨拶なんかの躾を身につけるのに意義があるかもしれないが、プロレス技に何の意義があるのか!
大体3年生は「神」とか「天皇」で、2年は「人間」、1年は「下僕」というのが通り相場。
こんな理不尽な生活環境で生活してたら性格もひねくれまっせ!
まぁ、ちょっとやそっとのことでは腹も立たないし、耐える事ができる様になったが…。
こんなんでも白うさぎの学年はまだマシなのだ。
3年の先輩に聞くと、「修練」=「シバき」だったそうだから。
殴られるのも序の口、みぞ蹴り喰らわされたりという事もあったそうな…。
中には「ジャンピングみぞ蹴り」とか「助走付きみぞ蹴り」とかもあったと言うから滅茶滅茶だ。
ただし、蹴り方はプロ級(何のこっちゃ)正確にみぞおちへヒットさせる者のみが行っていたらしい。
先輩への接待の中で、一番費用負担のデカイのは「インスタントラーメン」である。
何が悲しゅうて、自分のラーメン先輩に作って差し上げなければならないのか?
恨みを抱いた後輩がする行為はただ一つ…「カーッ、ぺッ」ですわ…。(食事中の方はスミマセヌ…)
ある日、後輩達から蛇蝎の如く嫌われている先輩である「Let's」(「Let's 柔道」とか「Let's プロレス」等と言っては無抵抗の後輩達をイジメ抜いていた。)がやって来て、「ラーメン・パーティーしようぜ!」とのたもうた。
たまたま部屋にいた白うさぎと同級生のヤマジュウは、あちこちの部屋の同級生達に「ラーメンないか?」と調達に走り回った
それでやっと3個揃ったので給湯室でラーメン作り…
ヤマジュウが、「おい、“アレ”やらねーか?」と言ったが、白うさぎは何となく嫌な予感がしたので「やめとこーぜ」と思い止まらせた。
できたてのアツアツのラーメンを持っていった二人。
3人で車座になり「いただきます」をしようとしたその時!
「Let's」が急に「取り替えっこしようぜー」とのたもうた。
「危ねー、セーフ!!」
口にこそ出せないが胸をなでおろした白うさぎ達であった。
多分混入物を警戒したのだろう。危ないところだった…
この先輩も絶対ヤッていたクチだな…。
この「Let's」、先輩にうまいこととりいっていた為、3年時には部長となったが、暴君ぶりを発揮!あまりのひどさに耐えかねた白うさぎ達が結束してクラブから追放処分にした。
同級生のモリヤンは「青春時代」ならぬ
「黒冬時代」と言っていたが、当時はホンマ先輩の暴力やイジメ、理不尽なルールに泣かされ、後輩は後輩で「新人類」らしく上下関係に無頓着。「棒倒し」もルール変更だし。
まったく自分達は損な世代だと出るのはため息ばかり…。
しかし今となっては楽しかった事より苦労した思い出の方がよく覚えている。
あれはあれで自分にとっていい経験だったのかなぁ?
白うさぎが3年の2学期。
それまで頭髪は丸坊主と決まっていた校則が改正となり、多少伸ばしても良くなった。
数年して、男子校から男女共学へ移行。
そしてつい数年前、統合により母校は消滅した………。
一体あの3年間はなんだったのだろう…とたまに考える。
社会へ出たら理不尽な事も沢山ある。そういう事にも心を倒さず踏ん張って行ける精神力をあの時期に養ったのだ、そう思う様にしている。
さて、先の担任話の続き…。
「便器なめさせられ、あんまりにも悔しかったので、便器から汲んだ水で茶を入れて出してやったわー。」
どこの世界も、まぁ似たようなもんですな